中世の要塞からランドマークへ:ベルギー、アントワープの石の城Het Steen(ヘット・ステーン)~Het Steen in Antwerp

2025年7月4日金曜日

アントワープ ベルギー

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ベルギーの港湾都市アントワープは、シェルデ川沿いに広がるヨーロッパ有数の港町であり、歴史と文化が息づく場所です。

アントワープ聖母大聖堂から少し離れた運河沿いに佇む「Het Steen(ヘット・ステーン)」は、アントワープ最古の建物であり、街の歴史を象徴する中世の要塞です。




Het Steenの歴史


Het Steenの起源は9世紀に遡ります。カロリング朝時代、ヴァイキングの侵攻からシェルデ川を守るために築かれた最初の要塞がその始まりです。当時は「Antwerpen Burcht(アントワープの城塞)」と呼ばれ、街の最古の市街地の一部でした。

現在の構造は1200年から1225年にかけて建設された石造りの門で、13世紀初頭にブラバント公爵の城の一部として機能しました。この時期、要塞はシェルデ川へのアクセスを管理し、都市の防衛と経済を支える重要な役割を果たしました。




1520年頃、神聖ローマ皇帝カール5世のもとで大規模な改築が行われ、名前が「's Heeren Steen(王の石の城)」から「Het Steen(石の城)」に変わりました。オランダ語の「steen」は「石」を意味し、城塞や宮殿を指す言葉として使われました。この改築により、要塞はより堅牢な石造りの構造となり、現在の名称が定着しました。

中世から近代にかけて、Het Steenは多様な役割を担いました。1303年から1827年までは監獄として使用され、都市の司法機関である「Vierschaar(裁判所)」や市議会の場としても機能しました。

しかし、19世紀にシェルデ川の堆積を防ぐため河岸が整備された際、城塞の大部分や周辺の歴史的家屋、さらには市最古の教会(Sint-Walburgiskerk)が取り壊され、現在の建物は元の城塞のわずか5%未満に縮小しました。




19世紀後半、Het Steenは新たな役割を担います。1862年、歴史家のピーター・ジェナールが考古学博物館の設置を提案し、1864年に博物館として開館したのです。1952年には海洋史博物館の別館が追加され、古い運河船が岸壁に展示されました。この海洋博物館は2011年に「Museum Aan de Stroom(MAS)」に移転しました。


Museum Aan de Stroom(MAS)

建築と特徴


Het Steenは、中世の軍事建築の特徴を残す印象的な要塞です。 

厚い石壁と狭い窓が特徴の堂々とした門は、13世紀の防御施設の名残です。ゴシックやルネサンス様式の要素が周辺の建物に見られ、歴史の変遷を物語ります。

特に、入口のアーチ上にある2世紀のセミニ(Semini)像は注目に値します。


入口のアーチ上にある2世紀のセミニ(Semini)像



セミニは北欧の若さと豊穣の神で、かつて女性が子作安産を祈願したとされ、地元民は「セミニの子供たち」と自らを呼ぶこともありました。この像は、17世紀にイエズス会によって一部が破壊されたものの、文化的遺産として保存されています。


伝説の巨人ランゲ・ワッパー(Lange Wapper)の像


城の入口橋には、伝説の巨人ランゲ・ワッパー(Lange Wapper)の像が立ち、中世に市民を恐怖に陥れた民話のキャラクターを描写しています。

また、シェルデ川沿いには「De Gulle Waard(寛大な主人)」のブロンズ像があり、交易都市としてのアントワープの繁栄を象徴しています。

19世紀末の改修では、ネオゴシック様式の新翼が追加され、現在の姿が形成されました。




2021年の大規模改修では、現代的なコンクリート拡張部分が追加され、観光客を迎えるための施設が整えられました。この改修により、Het Steenは歴史と現代が見事に融合したランドマークとなっています。


最上階の展望台からの眺め


展望台からはさまざまな船が行き交う様子が見れます

現在の役割:観光の拠点


2021年10月22日、約3500万ユーロを投じた改修を経て、Het Steenは「Antwerp Visitor Center」として生まれ変わりました。観光案内所、クルーズターミナル、そして「The Antwerp Story」というインタラクティブな展示が行われています。


アントワープ港に寄港しているクルーズ船。船上にプールが見える

文化的意義と民話


Het Steenは、アントワープの文化と民話に深く根ざしています。ランゲ・ワッパーや巨人のドルオン・アンティゴーン(Druon Antigoon)の伝説は有名です。


伝説の巨人ランゲ・ワッパー(Lange Wapper)の像


アンティゴーンはシェルデ川を通る船人に通行料を求め、支払いを拒む者の手を切り落としたとされます。ローマの兵士ブラボーがこれを倒し、その手(「hand」)を川に投げ(「werpen」)たことから、「Antwerpen(アントワープ)」の名が生まれたという伝説です。


アントワープ市庁舎前のブラボーの像

まとめ

Het Steenは、アントワープの歴史と文化を体現するランドマークです。

中世の要塞としての起源から、監獄、博物館、そして現代の観光拠点へと変遷を遂げ、街の過去と現在をつなぎます。The Antwerp Storyのインタラクティブな展示や屋上の絶景は、観光客にとってアントワープ探訪の理想的な出発点です。シェルデ川沿いのこの石の城を訪れ、アントワープの魅力を深く感じてみてください。



Steenplein 1
2000 Antwerp



 

▼オランダのお城。バラとクリスマスマーケットで有名です
 

▼クリスマスシーズンのアントワープ聖母大聖堂
 

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ミイル。ブログ Miruu 管理人。オランダ芸術や街散策を中心に、美術だけでなく建築なども含めた芸術について広く紹介します。 Twitter: ミイル@miirublog

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