モンドリアンとファン・デル・レック、幾何学的抽象絵画を求めたふたりの画家~Mondrian & van der Leck @ Gemeentemuseum in Den Haag

2017年6月23日金曜日

デン・ハーグ デン・ハーグ市立美術館 モンドリアン 展覧会

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もう終了してしまった展覧会ですが、オランダのデ・スタイル年を祝う展覧会のひとつなので、記録の意味も含めて書こうと思います。



モンドリアンとファン・デル・レック。モンドリアンの名前を知っていても、ファン・デル・レックの名前を知っている人はかなり少ないのではないかと思います。

ファン・デル・レックはモンドリアンの友人であり仲間であった画家のひとりで、オランダの近・現代の美術館を訪れた人なら、下のようなタイルの作品を観たら、「あぁ!」と思い当たる方もいるかもしれません。



ファン・デル・レックのこのタイル作品はかわいらしいので、モンドリアンやデ・スタイルの抽象絵画が苦手だという人にも人気です。



モンドリアン(左)とファン・デル・レック(右)は1915年に出会いました。奇遇なことに二人ともまったく別の場所で、似たようなアプローチで制作していました。

モンドリアンは木や教会のファサードなどを次第に線と色面だけで作品制作し、ファン・デル・レックはかつてステンドグラス制作をしていたこともあって、輪郭線を直線で描き、そのなかを色で塗りつぶす方法で作品制作していました。


Left: Piet Mondrian, Composition in Oval with Colour Planes 2, 1914
Right: Bart van der Leck, The Patient, 1912

1914年と1915年、モンドアリアンは水平・垂直の線だけで、教会のファサードや海、空を描きます。


Piet Mondrian, Composition 10 in Black and White, 1915

この頃の作品は水平・垂直の線だけで構成されているのに、画面に奥行きがあるんですよね。上の《コンポジション no. 10》だと楕円形ということもあって、卵のような立体感があります。ここでモンドリアンは色を使わず、線と線が生み出す形の効果を探求しています。


Bart van der Leck, The Tempest, 1916

一方、ファン・デル・レックは線と奥行きを排除して平坦な画面を作り出しました。色彩も原色のみです。色面による構成で、色の組み合わせによってインパクトの強い作品を描きました。


Piet Mondrian, Composition in Line, 1916-1917

1916年、モンドリアンは《コンポジション1916》と《線のコンポジション》を制作しました。ここでモンドリアンは《コンポジション no. 10》を発展させて、より整理されて明快な画面を作り出しています。


Bart van der Leck, Composition 1916 No. 4, 1916

ファン・デル・レックはこれまで使用していた色面を、線へと集約しました。モンドリアンと相違点は斜線を用いていることと背景に黒を採用していること、そして(なんとなく)元の形が分かるということです。右側のパネルに(なんとなく)人の形が見て取れますよね。

よく似た作品を描くようになったふたりは、この頃、新しい絵画や芸術のありようについてよく語り合っていたそうです。


Left: Piet Mondrian, Composition with Colour Fields, 1917
Center: Piet Mondrian, Composition no. 3 with Colour Plaines, 1917
Right: Piet Mondrian, Composition with Colour Plaines 5, 1917

ピンクや水色、山吹色の四角が絵の中でふわふわと浮かんでいるような、かわいらしい作品が並んでいます。これらの作品を見たとき、モンドリアンの「赤・青・黄の三原色」で描いた作品からずいぶんかけ離れているように思ったのですが、用いられたパステルカラーはよくよく考えると「赤・青・黄の三原色」に白を加えたものでした。


Left: Bart van der Leck, Composition 1917, Nr. 1 (Dogcart), 1917
Center: Bart van der Leck, Composition 1917, Nr. 6 (Donkey Riders), 1917
Right: Bart van der Leck, Composition 1917, Nr. 2 (Dogcart), 191

ファン・デル・レックのほうも色面がより小さくなり、余白が均一でないために線が浮遊しているような印象を受けます。

画面からは(なんとなく)見えていた元の形が消え、完全な抽象になっていますが、作品名を見てみると無機質な「コンポジション」の後に(ドッグカート)(ロバに乗っている人たち)と具体的な対象物が書かれていて、現実世界と繋がっていることが分かります。

ファン・デル・レックは、いまだ現実世界がインスピレーションになっています。このことが、モンドリアンとファン・デル・レックとの間に亀裂をもたらすこととなりました。


Left: Bart van der Leck, The Woodcutters, 1928
Right: Piet Mondrian, Composition with Grid 9: Checkerboard  Composition with Bright Colours, 1919

上の写真の右の作品がモンドリアンのものです。格子状に線をひいた中を色で塗りつぶしていて、完璧な幾何学模様です。作品名も《格子のコンポジション9:明るい色彩のコンポジション》と現実世界を想起させる言葉がありません。

左のファン・デル・レックの作品も一見、現実世界からかけ離れた作品のようですが、作品名には《木こり》と具体的な名前が入っています。作品名を知ってから、もう一度作品を見てみると、画面に二人の木こりの姿が立ち上がってきます。


Bart van der Leck, Study of the Woodcutters

この作品の下書きには木こりのスケッチが残っています。

完璧な抽象を目指したモンドリアンと、現実世界に根差した抽象を目指したファン・デル・レック。ふたりの経歴を比べることで、それぞれの違いが引き立つとてもいい展覧会でした。



Mondrian & van der Leck
2017.02.12-2017.05.21

Gemeentemuseum, Den Haag
Stadhouderslaan 41
2517HV, Den Haag
https://www.gemeentemuseum.nl/en
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ミイル。ブログ Miruu 管理人。オランダ芸術や街散策を中心に、美術だけでなく建築なども含めた芸術について広く紹介します。 Twitter: ミイル@miirublog

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