オランダのデン・ハーグには、H.P.ベルラーヘ(1856–1934)が設計したデン・ハーグ美術館(Kunstmuseum Den Haag)が建ち、そこには、ただ作品を並べるだけではない、特別な常設展示があります。それは17世紀後半から18世紀末にかけてのオランダ上流階級の室内を、ほぼ原寸で移築した「時代様式の部屋(Stijlkamers)」です。

ベルラーヘは、応用美術を生活の文脈の中で味わってほしいと願い、これらの部屋を設計しました。美術を「鑑賞するもの」から「共に生きるもの」へと取り戻そうとした意志がここに感じられます。
普段はデルフト焼きが置かれているこれらの部屋が、展示替えの時期に空になっていたことで、壁や天井、細部の意匠を存分に味わうことができました。
 |
| デン・ハーグ美術館の外観 |
ホワイトキューブの白い空間に、重厚な扉がぽつんとあらわれる光景は、それ自体が一つの現代的なインスタレーションのようでもありました。
 |
| ホワイトキューブに立つ、重厚な扉 |
五つの部屋が語る、時代の息吹
1. 金革の部屋(Goudleerkamer, c. 1680)
黄金時代の余韻を最も濃く残す部屋です。金箔を押した革の壁掛けは、柔らかな光を吸い込みながら、静かに輝きます。革の質感、微かな凹凸、時間の経過とともに深みを増した金色など、ここには触覚的な豊かさと目に見えない繁栄の記憶が息づいています。17世紀のオランダが世界の海を支配し、富を蓄えた時代を伝えています。
 |
| 金革が壁全体に貼られている |
 |
| 革らしい表情豊かな表面 |
2. ゴブラン織りの部屋(Gobelinzaal, c. 1710)
アムステルダムの邸宅から丸ごと移された応接室です。壁一面を覆うアレクサンダー・バールト(Alexander Baert)のタペストリーには、幻想的な森と珍しい鳥たちが織りなす物語が広がります。織物の重厚さと光の戯れが、18世紀初頭の上流階級の会話の響きを思い出させます。
 |
| 深い森にいるような錯覚を覚える部屋 |
3. 日本の部屋(Japanse Kamer, 1720-1770)
名称には「日本」とありますが、そこに広がるのはむしろ強い中国趣味(シノワズリー)を感じます。黒・赤・金のラッカー調パネルに、砕いたガラスが星のように散りばめられた壁。ヨーロッパ人が東洋に憧れ、想像の中で再創造した「理想の東洋」が、ここにあります。当時、高価な東洋の磁器や漆器をめぐる熱狂が、こうした部屋を生み出しました。
 |
| 重厚な扉の向こうに赤い部屋が待っている |
 |
| 天井 |
ちなみに、以前ここには豪華なデルフト焼きの花器が展示されていました。
 |
| モダンなデルフト焼きの花器 |
 |
| チューリップ専用の花器。高価だったチューリップを少ない本数で豪華に見せるために、特別に作られた花器で、重箱のように重なっている容器の四隅に花を挿します |
 |
| 頭にも活けます |
4 & 5. ルイ15世の部屋(Lodewijk XV-kamer, c. 1770)とルイ16の部屋(Lodewijk XVI-kamer, c. 1790)
ロココの曲線的な優雅さと、新古典主義の端正な直線性が、隣り合って存在する対照的な二室です。ルイ15世様式の部屋は、まだ余韻を残す装飾的な豊かさを感じさせ、ルイ16世様式は、啓蒙主義の影響を受けた理性と節度、古代への憧れを体現しています。
18世紀後半のヨーロッパが、華やかさと抑制、感情と理性の間で揺れ動いていた様子が、室内の空気そのものに刻まれています。
時代を超えて、私たちを惹きつけるもの
これらの部屋は、単なる復元ではなく、本物の歴史の断片です。光を抑えた薄暗がりの中で、革や織物、木の質感に包まれると、美術史が「知識」から「体験」へと変わります。
ベルラーヘのモダンな建築の中で、遠い時代の生活の息遣いが静かに息づいている。この奇跡的な同居こそが、この場所の最大の魅力です。
【公式サイト】
【関連記事】