オランダ陶芸の歴史において、17世紀のデルフト陶器や「チューリップ・タワー(tulipière)」は、豊かな花文化の象徴であり続けてきました。
当時のチューリップは、世界初のバブルを引き起こすほど高価なものでした。チューリップ・タワーは、少ない本数でも豪華に見せられるよう設計された文字通りの「見せるための器」です。同時に、1本ずつ独立した差し口に挿すことで、球根植物特有の給水を効率化する実用性も兼ね備えていました。
しかし、その派手で装飾的な佇まいに、個人的にはいつも少し距離を置いていたのが本音です。
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| チューリップ・タワー(tulipiere) |
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| 頭部にも花を挿します |
そんな先入観を覆してくれたのが、デン・ハーグ美術館で開催されていたヤン・ファン・デル・ファールト(Jan van der Vaart)の回顧展でした。
彼の花瓶は伝統的なチューリップ用の花瓶を現代の構成主義的な造形に再解釈したものでした。幾何学的でミニマルでありながら、どこか温かく、人間的な息遣いを感じさせます。
シリーズ生産を積極的に取り入れ、「芸術家」ではなく「pottenbakker(陶工)」を自称した彼らしい、民主的な美意識がそこにあります。戦後オランダ陶芸の民主化と機能主義の深化を体現する、極めて重要な仕事だと言えます。

それなのに、彼の作品は決して冷たい機能美にとどまりません。日本の「用の美」や民芸思想に通じる素朴なぬくもりが、モダンな造形の中に絶妙に溶け込んでいます。鑑賞するための美術品ではなく、日常に寄り添うための器だからこそ、床の間のないオランダの家住む私でさえ、「床の間に飾りたい」と自然に思ったのかもしれません。心が落ち着き、見ている方の居住まいが正される、そんな佇まいです。
Jan van der Vaartの回顧展は、日常のなかに美を溶け込ませる生き方そのものを、やさしく思い出させてくれました。生活の中にそっと一輪の花を添えたくなるような気持ちになりました。
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