ユトレヒト・ドム教会(Domkerk)で、歴史の傷痕と光に触れる~Discovering History and Light at Utrecht's Dom Church

2026年9月18日金曜日

ユトレヒト 教会

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オランダ在住のアート好き、ミイルです。

アムステルダムから列車で約30分。運河が穏やかに流れる古都ユトレヒトの中心に、ひときわ高くそびえ立つ塔があります。オランダで最も高い教会塔「ドム塔」です。

ユトレヒトのシンボル、ドム塔

そしてそのすぐ傍らに佇むのが、今回ご紹介するドム教会(Domkerk)です。

一見すると、ヨーロッパでよく見る美しいゴシック大聖堂のようですが、この教会には、一歩足を踏み入れた瞬間に気づく「ある奇妙な空白」と非常に稀有な「歴史の記憶」が刻まれています。





1. ぽっかりと空いた広場が語る、1674年の記憶


教会へ向かうと、まず不思議な光景に出会います。象徴である「ドム塔」と「教会(聖堂)」の本体が、完全に切り離され、その間が一般の道路(広場)になっているのです。

左がドム塔、右がドム教会。そのあいだは通り抜けができる広場になっています。

実はこのドム塔と教会は、かつてこの広場の部分を身廊とする一つの巨大な大聖堂だったのです。

13世紀に建設が始まったこの教会は、フランス・ゴシック様式をベースにした、オランダ随一のカトリック大聖堂となるはずでした。しかし、資金難から身廊部分の工事が簡素化されてしまいます。

運命の日は、1674年8月1日。

この地を激しい嵐(局地的なトルネードだったと言われています)が襲い、構造的に脆弱だった身廊部分だけが、まるで彫刻をくり抜いたかのように崩壊してしまったのです。

崩れた瓦礫が完全に撤去されたのは、なんと約150年後のこと。そして、現在のドム広場は、かつて神に捧げられた巨大な建築空間の「内側」だった場所です。
広場中央からドム塔を望んだところ

広場中央からドム教会を望んだところ。かつてはこの二つの入口をつなぐ身廊があった。

塔と教会をつなぐ身廊を再現したマケット
Maquette van de reconstructie van het middenschip van de Utrechtse Domkerk (ontwerp Lex Haak & Kees Metz, 1988)



2. 北方ゴシックの垂直性と、削ぎ落とされた空間美


聖堂(かつての翼廊と内陣部分)の中に入って視線を上に上げると、細い柱が束(たば)のようになって天井へと伸び、美しいリブ・ヴォールトが天井を支えているのが見えます。13〜14世紀のフランス・ゴシックに見られる「天上の神へと近づくための垂直性」が、見事に表現されています。



ただ、フランスのカテドラルと決定的に違うのは、その「白さ」と「飾り気のなさ」です。

かつてカトリックの華美な装飾で彩られていたこの空間は、16世紀の宗教改革を経て、プロテスタント(カルヴァン派)の教会となりました。絵画や金銀の装飾は取り外され、壁は白く塗られました。

ドム教会の内部を歩いていた際、ぎょっとした場所がありました。側廊の奥にある小さな礼拝堂や、石のレリーフ(浮き彫り)です。

Burial chapel of Jan van Arkel bishop of Utrecht

彫刻に描かれた聖母マリアや聖人たちの「顔」が、ことごとく削り取られているのです。



これらは、1566年からヨーロッパ全土を揺るがした「聖像破壊運動」の生々しい痕跡です。

当時、プロテスタントの急進派は、カトリックの聖像崇拝を偶像崇拝であると批判し、各地の教会で彫刻や絵画を打ち壊しました。通常、こうした破壊に遭った美術品は撤去されるか修復されますが、ドム教会では「歴史の記憶」として、あえてそのままの姿で残しています。

顔を失った聖母子像の姿は、400年以上が経過した今、宗教対立の激しさと、それを乗り越えてきた人間の歴史を証明するモニュメントとなっています。

教会内を見回しても、16世紀以前に作られた十字架や聖人像などが見当たらない。

この祭壇には司祭などではなく、軍人の墓。

パイプオルガン

聖人が描かれたステンドグラスは20世紀に制作されたもの。



カフェで一息


カプチーノを飲みながら、何百年もの間、人々がここで祈り、語り合い、時には嵐や戦争という受難を乗り越えてきたことに思いを馳せました。傷跡すらも「歴史の深み」として受け入れ、穏やかな日常の風景に溶け込ませているユトレヒトの人々の寛容さに心打たれました。



大きな窓からは中庭がのぞめる



中庭で、中世の静寂に守られて


教会を出て、カフェの窓から見えた中庭に向かいました。

中庭への入口

中庭を囲む回廊

中央に小さな噴水



14世紀に造られた回廊に囲まれたこの庭園には、美しいハーブや季節の花々が咲き誇り、中央の噴水からは心地よい水の音が響いています。

上を見上げると、回廊の美しい尖頭アーチの向こうに、ドム塔が顔を覗かせます。

ドム教会と、左奥にドム塔を望む。右下のガラスの部分がカフェ。

激しい嵐による崩壊、そして宗教改革という歴史の荒波。

ユトレヒトのドム教会は、決して「完璧な形」で残された遺産ではありません。傷だらけで、未完で、途切れてしまっています。けれど、だからこそ、差し込む光のあたたかさや残された空間の愛おしさが訪れる者の心に深く染み入るのかもしれません。

【ドム教会公式サイト】


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ミイル。ブログ Miiru 管理人。オランダ芸術や街散策を中心に、美術だけでなく建築なども含めた芸術について広く紹介します。Twitter: ミイル@miirublog

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