ケタ外れの才能を持った画家、ルーベンス~Pure Rubens @ Museum Boijmans van Beuningen in Rotterdam

2018年12月12日水曜日

ボイマンス・ファン・ベーニンヘン美術館 ロッテルダム 展覧会

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美術史に燦然と名を残し、美術の通史をあつかった書籍では一章を割かれているなど偉大な画家のはずなのに、私がこれまでいまいちその偉大さを実感できなかった画家がいました。ベルギー、アントワープの画家ルーベンスです。

彼はスペイン王室から宮廷画家として迎え入れられ、パリのリュクサンブール宮殿に24点の連作絵画《マリー・ド・メディシスの生涯》を描き、イングランドのホワイトホール宮殿の、バンケティング・ハウスのために天井画の制作するなど、ヨーロッパを舞台に活躍した初めての画家と読んでもいいと思います。

私と同年代の方なら、アニメ「フランダースの犬」で初めてその名を知った方が多いと思います。

オランダのロッテルダムのボイマンス・ファン・ベーニンヘン美術館では、ルーベンスのオイルスケッチ(下絵)を中心に据えた展覧会が開かれているのですが、ここを訪れて、ケタ外れの才能を持ったルーベンスに驚きおののきました。


今回の展覧会はオイルスケッチ(下絵)で構成されています。

なぜ、完成作品ではなくオイルスケッチ(下絵)なのか。

それは、ルーベンスが描いていたのが祭壇画や室内装飾画などが巨大な作品であるために動かせないからです。例えば、レンブラントにとって《夜景》は彼のキャリアの中で突出した巨大なサイズの作品なのですが、ルーベンスにとっては「いつものサイズ」でした。

しかも壁面装飾や天井画になると、それが複数枚あるわけです。このような巨大な作品を展覧会場に移動させることは大きなリスクであり、またそれを展示するスペースも用意することができません。

オイルスケッチはルーベンスが生きていた時代は、アトリエの一室に厳重に保管されており、世の中に知られていませんでした。旅行に出かけるときなどは保管した部屋の鍵をかけたか、何度も何度も弟子に確認したそうです。

それが、ルーベンス死後、その存在が明らかになり、質の高さによりコレクターアイテムとして取引されるようになり現在に至ります。
Peter Paul Rubens, Hercules Overcoming Discord, 1615-1620

上の作品は大理石彫刻をモデルに描いたもので、冷たい大理石の彫刻をどのように血の通った人間に変容させたのか、制作の秘密が垣間見れます。
Peter Paul Rubens, The Lion Hunt, 1615

レオナルド・ダ・ヴィンチの《アンギアーリの戦い》の模写です。複雑な人馬の動きを捉え、馬や人物の恐怖の表情が強調されています。

上の作品はアニメ「フランダースの犬」で、主人公ネロがずっと見たいと願い、死ぬ間際にようやく見ることができたアントワープ大聖堂の《キリストの降架》の下絵です。

しっかりと細部まで描きこまれている下絵です。この種の下絵は弟子たちに示す見本として描かれたものです。

下の写真は展示室の一部に掲示されていたオイルスケッチの制作と使用の様子を描いたものです。濃い黒色の洋服を着て髭を生やしているのがルーベンスで、グレーの洋服を着ているのが弟子です。

左から見ていくと、弟子が下塗りを施したカンヴァスにルーベンスが部分図をいくつか描き、それらをもとに全体図を構成していきます。

ルーベンスが描いた構成図に弟子が格子状の線を引いて、実際のカンヴァスに引き伸ばし、ルーベンスが描いた構成図や部分図を手本に彩色します。

ルーベンスが最終の手直しを経て完成となります。(手直しがないときや、弟子の手を借りずに描いた作品もあります)

ルーベンスのアトリエの画家たちはルーベンスの技法を学び、完璧なルーベンス風の作品を描くことができたので、オイルスケッチを描くだけで、ルーベンスは一人では決して仕上げることのできないスピードで複数の完成作品を仕上げることができたのです。

ルーベンスの画家として技術だけでなくアトリエの親方としてのプロデュース力にすぐれ、短期間で優れた作品を仕上げることで得られるクライアントの信頼を得て、ヨーロッパをまたにかけた初めての画家になったのか…と納得と同時に完璧さに圧倒されました。



Pure Rubens
2018.09.08-2019.01.13

Museum Boijmans van Beuningen
Museumpark 18-20
3015 CX Rotterdam
the Netherlands
https://www.boijmans.nl/en
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ミイル。ブログ Miruu 管理人。オランダ芸術や街散策を中心に、美術だけでなく建築なども含めた芸術について広く紹介します。 Twitter: ミイル@miirublog

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