「愛」を超えて輝く巨匠たちーーマウリッツハイス美術館「ティッセン=ボルネミッサ❤️マウリッツハイス:マドリードからの巨匠たち」展覧会評~Masters Beyond Love: Review of the Thyssen-Bornemisza Mauritshuis Exhibition

2026年10月23日金曜日

デン・ハーグ フェルメール マウリッツハイス美術館 展覧会

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オランダのデン・ハーグにあるマウリッツハイス美術館で、いま、スペインのマドリードにあるティッセン=ボルネミッサ国立美術館との双方向の交流によって実現した特別展、「ティッセン=ボルネミッサ❤️マウリッツハイス:マドリードからの巨匠たち」が開催されています。

両館が誇る珠玉のコレクションから、それぞれ25点の名品が海を越えて交換出品されています。

本展の通底するテーマは「愛」です。それは単なる甘やかな恋情にとどまらず、神への畏敬、失われたものへの切望、そして何世紀をも超えて受け継がれる芸術そのものへの偏愛をも含んでいます。


神秘と実在のあわいで


会場に足を踏み入れると、まず時代と地域を軽々と越えるヨーロッパ絵画の厚みに圧倒されました。

特筆すべきは、ヤン・ファン・エイクによる《受胎告知の二連画》の存在です。

初期フランドル絵画の父が描いたこの小さな油彩・グリザイユ(単色画)の作品は、石灰岩彫刻のように見える聖母子と大天使ガブリエルが、驚異的な細密描写によってまるで生きた存在としてそこに佇んでいるかのような錯覚を起こさせます。


背景に彫刻の反射まで描かれています。(写真はボケてます……)

ピエロ・デッラ・フランチェスカ《少年の肖像(グイドバルド・ダ・モンテフェルトロか)》

また、イタリア・ルネサンスのピエロ・デッラ・フランチェスカによる《少年の肖像(グイドバルド・ダ・モンテフェルトロか)》は、静けさの中に毅然とした知性を湛えています。硬質な輪郭線と光の緻密なコントロールは、イタリア的ヒューマニズムの極致であり、北方ルネサンスの細密描写とは異なる「理性の美」を私たちに教えてくれます。
さらに、マニエリズムの洗練を体現するブロンツィーノの《聖セバスティアヌスとしての若い男の肖像》や、エル・グレコ特有の霊気が漂う《受胎告知》といった作品群が「愛と救済」の物語を紡ぎ出しています。

ブロンツィーノ《聖セバスティアヌスとしての若い男の肖像》

エル・グレコ《受胎告知》

美術史的「伏線回収」


本展の最も大きな功績は、作品同士の「ペアリング」と、マウリッツハイスの常設コレクションとの連動にあります。

その象徴となるのが、スペインから借り受けたセバスティアーノ・デル・ピオンボ《フェリー・カロンデレットの肖像》と、マウリッツハイス所蔵のヴィレム・ファン・ハフト《カンパスペを描くアペレス》の2点が展示されている状況です。

左:セバスティアーノ・デル・ピオンボ《フェリー・カロンデレットの肖像》
右:ヴィレム・ファン・ハフト《カンパスペを描くアペレス》

画中画としてファン・ハフトの作品の中に微細に描き込まれていた作品が、いまや実物としてその横に並び立つ姿は、この作品を長年見てきた私に「美術史の伏線が回収された」かのような興奮をもたらしてくれました。

ヴィレム・ファン・ハフト《カンパスペを描くアペレス》


ヴィレム・ファン・ハフト《カンパスペを描くアペレス》の右側の壁に描かれたセバスティアーノ・デル・ピオンボ《フェリー・カロンデレットの肖像》

セバスティアーノ・デル・ピオンボ《フェリー・カロンデレットの肖像》の実物

また、マイケル・スヴェーツの《ターバンを巻いた少年》とフェルメールの《真珠の耳飾りの少女》という、同じ時代・共通する配色やまなざしを持つ二人の若者の視覚的対話も、マウリッツハイス美術館では強調されていました。

マイケル・スヴェーツ《ターバンを巻いた少年》

フェルメール《真珠の耳飾りの少女》

しかしながら、この2作品はそれぞれ企画展示室と常設展示室にあり、同室には展示されていません。それをマウリッツハイス美術館はライブストリーミングすることによって叶えようとしました。

ただ私の感想としては、自分の姿が知らないところでほかの人に見られているのは気持ちのいいものではありませんでした。同室に展示できないなら、その作品だけを映したディスプレイもしくはレプリカにしてはと感じました。
奥の壁にフェルメール《真珠の耳飾りの少女》が展示され、左の壁にあるディスプレイでマイケル・スヴェーツ《ターバンを巻いた少年》の現在の展示の様子を映しています。

おわりに:それでも胸を打つ、作品の強さ


残念ながら、展覧会を通じて演出やテーマ設定には消化不良を感じてしまいました。「両館の相思相愛」や「愛の諸相」というメインコンセプトは甘くセンチメンタルで(展覧会タイトルにも赤の❤が入っている)、作品が本来持つ歴史的・政治的文脈を薄めかねないし、ライブストリーミングなどの現代的演出はSNS時代の話題作りに寄りすぎている感があります。

しかしながら、テーマ設定や演出にはいくばくかのあざとさや課題が残るものの、持ち込まれた25点の絵画には圧倒的な「美と威厳」がありました。両館の珠玉が海を越えて交差するこの展示は、作品そのものの強さを改めて思い知らせてくれました。

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ミイル。ブログ Miiru 管理人。オランダ芸術や街散策を中心に、美術だけでなく建築なども含めた芸術について広く紹介します。Twitter: ミイル@miirublog

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