マラガ・ピカソ美術館で二つの展覧会を堪能した後、ピカソの生家へと足を向けました。その道すがら、ふと目を引かれたのは、グラナダ通り84番地に静かに佇む小さなパティスリーPastelería La Princesaです。
創業以来、地元の人々の日常を優しく支え、通りに面した窓辺で通りがかりの観光客の心を捉えてきたお店です。

店内に入ると、ショーケースには素朴で愛らしいマラガ伝統のお菓子たちが並んでいます。どれもが手仕事の温もりを感じさせ、つい目移りしてしまいます。
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| Pastelería La PrincesaがGoogleマップに提供していた写真 |
その中で私が選んだのは、マラガを象徴する二つのスイーツのトルタ・ロカス(Torta Loca) と ボラチュエロス(Borrachuelos) でした。
可愛らしい包装紙でささっと包んでくださる店員さんの手際がよくて思わず見つめてしまいました。

「狂気のケーキ」とも呼ばれるトルタ・ロカスは、薄く重ねたパイ生地に、まろやかなカスタードクリームをたっぷりと挟んだものです。表面は鮮やかなオレンジ色と白色のグラッセで覆われ、中央に赤いチェリーがちょこんと乗っています。一口かじると、外側はサクサクと崩れて、やさしいカスタードの甘さがふんわりと広がります。

名前から想像するほど甘ったるくはなく、むしろあっさりと上品で、拍子抜けするほどの軽やかさでした。「もう一つ食べられる……いえ、むしろ食べたい」と思わせる、親しみやすい味わいでした。

このお菓子は、スペイン内戦後の1950年代、マラガの職人が生み出したものです。Eduardo Rubioという人物が限られた材料で人々の空腹と心を癒そうと考案したシンプルなアイデアでした。当時は「quitahambre」(空腹を忘れさせるもの)と呼ばれ、貧しさの中で生まれたたお菓子だったそうです。
今日ではマラガのアイデンティティの一つとなり、多くの店で作られていますが、基本の形——サクサクのパイ生地、まろやかなカスタード、鮮やかなオレンジグラッセ、そしてチェリーのアクセント——は変わりません。それは、70年以上前に戦後の厳しい時代に、人々の心をそっとなぐさめた「やさしさの象徴」として、今も残っています。
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| 左: ボラチュエロス、右: トルタ・ロカス |
もう一つのマラガ伝統菓子、ボラチュエロス は、秋から冬、特にクリスマスや新年の家族の集まりを彩るお菓子です。

薄く伸ばした生地を油で揚げ、蜂蜜や砂糖でコーティングしたもので、中には「cabello de ángel」(天使の髪)と呼ばれるカボチャの砂糖漬けが詰まっています。ふんわりとアニスの香りが漂い、スペインのお菓子なのにどこか懐かしい、黒糖のかりんとうを思わせる味わいでした。
マラガの伝統菓子を食べて、芸術と同じくらい日常の小さな喜びが人を癒す力を持っているということを感じました。Pastelería La Princesaの素朴なお菓子は歴史の中で人々の心を支えてきたやさしさと工夫を伝えてくれました。
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| Pastelería La PrincesaがGoogleマップに提供していた写真 |
▶ここに来る前に訪れたマラガ・ピカソ美術館


