アムステルダムのダム広場にある王宮で、9月27日まで日本の工芸作品が展示されていました。
「Nederland en Japan. Door de tijd verbonden(オランダと日本。時を超えて結ばれて)」と題されたこの展示は、2026年6月の天皇皇后両陛下のご訪問をきっかけに、オランダ王室コレクションの中から厳選された日本関連の工芸品を一堂に集めたものです。
▼背景の建物が王宮
出島を通じた独占的な交易の時代から、近代の皇室間の贈答、そして現代に至るまで、400年を超える日蘭の歩みがわかる品々です。解説には送られた時のエピソードも添えられていて、ただの外交の記録ではなく、人と人、文化と文化が丁寧に結ばれてきた歴史が伝わってきます。
17世紀の漆塗りキャビネット(長崎港と出島)
デン・ハーグにある、ハウステンボス宮殿の室内を飾っていた漆塗りのキャビネットです。正面には長崎港、側面には出島が精緻に描かれています。
17世紀後半、オランダが唯一のヨーロッパ交易相手だった時代の産物です。蒔絵と螺鈿の技法が、遠近感を意識した構図と溶け合い、単なる実用家具を超えた「風景としての工芸」へと昇華しています。籠に乗っているオランダ人がいたりと、このころのオランダ人の生活もうかがえます。


四季を描いた金地の屏風一双(住吉広貫筆、1845年)
約4メートルの幅を持つ金地の屏風で、春夏秋冬の風景と鳥や植物が描かれています。1845年にウィレム2世へ贈られたものです。
住吉派の柔らかな筆致と、金箔の輝かしい背景が織りなす空間は、江戸時代後期のやまと絵の伝統を色濃く引き継いでいます。季節の移ろいを一双で表現する構成は、時間そのものを視覚化する日本的な美意識の現れです。

漆の文箱と紙箱(赤塚自得作、1921年頃)
皇太子裕仁親王(後の昭和天皇)が、ウィルヘルミナ女王に贈られた精巧な漆工芸です。
大正時代の漆芸を代表する赤塚自得の手になる作品で、抑制の効いた蒔絵と、手触りを意識した曲面が特徴です。実用性と装飾性のバランスが絶妙で、近代日本の工芸が「用の美」を追求していた時代の息吹を感じさせます。贈答品としての品格と、作り手の温もりが同居しています。


桜模様の柿右衛門様式花瓶(2002年)
当時の皇太子徳仁親王から、ウィレム=アレクサンダー王子(現オランダ国王)とマキシマ妃の結婚を祝して贈られた作品です。
有田焼の伝統である柿右衛門様式の白磁に桜が描かれています。余白を活かした構図と、控えめな色調からモダンな印象を受けます。古典的な様式を尊重しつつ、現代的な清澄さを備えた花瓶です。

大勲位菊花章と、宝冠章大綬章の綬と星章
金工と七宝、織物が融合した装飾品で、荘厳さと細やかさが際立ちます。西洋の勲章文化を日本が独自に消化した例として、近代国家形成期の美意識を伝える貴重な資料といえますが、それ以上に「めったに見られない貴重なものが見られた!」という感激のほうが強かったです。
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| 2014年に上皇からウィレム=アレキサンダー国王に贈られた、大勲位菊花章頸飾 |
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| 1898年に明治天皇よりエマ女王に贈られた褒章 |

儀礼用の刀装具一式
鞘や柄に施された金工や蒔絵が、武具でありながら美術品としての完成度を示しています。
江戸時代から明治にかけての刀装具は、実用を超えて「見るための美」を追求しました。王室コレクションに収まったこれらは、武力の象徴から文化の象徴へと役割を変えたからこそ贈られたものだと感じました。

近代の漆箱群
複数の小さな漆箱が並ぶコーナーです。蓋に施された細やかな文様や、内面の意匠まで丁寧に仕上げられています。
日常の道具を極限まで美しく仕上げる日本の工芸精神が、ここに凝縮されています。贈答品として選ばれた理由は、技術の高さだけでなく、相手への敬意を形にしたいという作り手と贈り手の心にあったのでしょう。
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| 小さな花にだけ施された螺鈿が慎ましい |

公式晩餐会で使用された食器とメニューカード
王室晩餐の席を再現する展示の一部です。日本から贈られた食器や、実際に使われたメニューカードが並びます。 食の場を美しく整えるという行為は、オランダと日本、どちらの文化でも「もてなし」の核心です。
使用されている食器はロイヤル・デルフトの「Blossom Panache」と呼ばれるシリーズで、カワセミ、オレンジの花、幾何学模様が描かれています。これらは、オランダ王室が国賓の迎賓や公式晩餐会を行うためにロイヤル・デルフトへ特別に発注・制作した特注品です。(似たデザインのものはロイヤル・デルフトで購入できます)
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| オレンジの花にとまるカワセミ |
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| 王冠の下に、国王夫妻のイニシャルである「W」と「M」(Willem-Alexander と Máxima)が組み合わされたモノグラム |
おわりに
これらの作品は、ただ美しいだけでなく、オランダと日本が長い時間をかけて積み重ねてきた信頼と敬意の結晶でもあります。王宮という空間で日本の工芸が展示され多くの人が興味深く見ている様子は、文化交流の理想的な姿を体現しているように思えます。
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