| Sleeping Muse, 1910 |
アムステルダムのH’ART Museumで開催中の「Brâncuși, The Birth of Modern Sculpture(ブランクーシ、現代彫刻の誕生)」を見に行きました。2025年9月20日から2026年1月18日まで続くこの大規模回顧展は、ルーマニア出身の巨匠コンスタンティン・ブランクーシの傑作30点以上を、フランスのポンピドゥー・センター(Centre Pompidou)のコレクションから借り受けて展示しています。ポンピドゥー・センターが大規模改修中なため、貴重な作品がまとまって一時的にオランダにやってきたというたまらない機会でした。
目次
抽象の詩人、ブランクーシの宇宙
▶作品を支える台座も作品の一部
▶眠れるミューズ
▶動物シリーズ
▶「接吻」シリーズ
ブランクーシとオランダの画家:意外な交差点
さいごに
抽象の詩人、ブランクーシの宇宙
ブランクーシ(1876-1957)は、20世紀彫刻の父と呼ばれる存在です。伝統的な写実主義を捨て、シンプルなフォルムと光の反射で「本質」を表現するスタイルで、モダンアートの道を切り開きました。この展覧会は、彼の生涯をテーマ別に追い、50年間のモチーフを探求しています。▶作品を支える台座も作品の一部
ブランクーシ自身がデザインしたオリジナル台座(ペデスタル)付きの彫刻群も多数展示されています。台座はただの土台じゃなく、作品の一部として存在しています。![]() |
| 上の白い大理石が作品《Timid》(1917) |
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| Sleeping Muse, 1910 |
展覧会の目玉の一つです。細長く滑らかな卵形の頭部が、静かに横たわる姿を抽象的に表しています。ブランクーシの恋人だった人物をモデルに、写実を超えた「眠り」のエッセンスが抽出されています。
光が当たる角度で表情が変わるのが不思議で、まるで夢の中で生きているかのようです。ブランクーシは「真実の形はシンプルでなければならない」と語っていましたが、この作品はまさにその哲学の結晶。近くで見ると、表面の微かな凹凸が呼吸を感じさせます。
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| ブロンズと石膏作品を間近で見比べられます 左:Sleeping Muse, 1910、右:Sleeping Muse, 1910 |
この展覧会では360度、全方位からブランクーシの作品を見ることができるので周りをぐるぐると歩きながら鑑賞しました。そこで気になったのが、女性の髪型。全てシニヨンのようなシンプルな髪型かと思ったら、予想以上にバリエーションがあるんです。
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| Sleeping Muse, 1910 |
後頭部の低い部分にまとめたシニヨン。
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| Head of a Woman, before 1922 |
こちらもうなじ近くにまとめたシニヨンですが、真ん中のお団子の周りにヘアアクセサリーを付けているか分けた毛束を巻き付けているようです。
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| Mademoiselle Pogany I, 1912-1913 |
複雑に編まれた髪型。どうなっているんだろう。
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| Mademoiselle Pogany III, 1933 |
エリザベート王妃のような編み上げられているのだろうか。

他にも、新生児(The Newborn)でポートレートから抽象へと移行するブランクーシの思考と制作の過程が見て取れました。
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| Head of a sleeping child, c. 1908 |
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| 左からThe Newborn II, c. 1923 Head of a sleeping child, c. 1921 Head of a sleeping child, c. 1921 Head of a sleeping child, c. 1908 |
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| The Newborn II, 1927 |
▶動物シリーズ
ブランクーシはさまざまな動物を彫刻に残しました。そのなかでとくに魅了されたのが鳥です。鳥は自由を象徴し、空高く舞い上がるその姿はブランクーシの想像力を搔き立てました。
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| Young Bird II, 1928 |
まだふっくらとしたあどけないフォルムをした若い鳥です。飛び立つエネルギーを蓄えています。

動物が集められて展示されたエリア。アザラシ、カメ、そしてつんざくような鋭い声をあげる雄鶏。その奥には若鳥が見えます。

別の角度から
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| The Kiss, 1923-1925 |

初期の代表作で、男女が寄り添う姿を粗い石の塊でまとめています。ロダンの作品《接吻》The Kiss(1888-1898)の影響を感じつつも、ブランクーシはキスに至るドラマを排して根源的な感情の発露としての姿を追求しています。髪型やわずかな胸のふくらみなどで二人の人物が抱き合っていることを表現していますが、目はひとつの円を描いています。
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| 指先がきれいにそろっている |
この接吻のモティーフは、ほかの作品でも見られます。
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| Torso of a Young Girl I, 1922 |
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| たくさんの恋人たち |
下の作品はBoundary Marker(国境標識)と呼ばれる作品です。ブランクーシ晩年の主要な作品の一つで、「接吻」シリーズの最終的な変奏版として位置づけられます。

3つのパーツを積み重ねた構造になっています。
中央のブロックに全身の恋人像が彫られ、上部と下部のブロックには小さく平面的な恋人像のレリーフが施されています。
初期の《接吻》(1907-1908年頃)では恋人たちの目や唇が融合して一体性を強調していましたが、この作品では明確な境界線が引かれ、完全に分離されています。
Boundary Marker(国境標識)は1945年、つまり第二次世界大戦終結の年に制作されています。当時、ルーマニア(ブランクーシの出身国)の国境は領土の一部を失うなど大きく変動しました。接吻をする二人のあいだに明確な境界線を描くことで国境を象徴しつつも人民の調和を表現した政治的な作品として解釈できます。
ブランクーシとオランダの画家:意外な交差点
ブランクーシはパリを拠点に活躍しましたが、実はオランダ美術とのつながりが意外に深いんです。この展覧会がアムステルダムで開催されるのも、単なる偶然じゃありません。
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| 中央上の写真:アムステルダム市立美術館に展示されているブランクーシの作品(1938年) |
具体的な関わりとして、ブランクーシの抽象スタイルは、オランダのデ・スティル運動(ピエト・モンドリアンやテオ・ファン・ドゥースブルフ)に影響を与えました。
たとえば、ドゥースブルフによって創刊された芸術運動の雑誌「デ・スティル」の創刊年度に5回もブランクーシの作品は取り上げられ、10周年記念号にはブランクーシ自身が寄稿しています。

さいごに
ブランクーシの作品は、シンプルなフォルムの中に無限の深さと抽象の魅力を秘めていました。アムステルダムのH'ART Museumで開催されたこの大回顧展は、ポンピドゥー・センターのブランクーシ・コレクションをまとめて見れたのは貴重な機会でした。現代彫刻の父と呼ばれる彼の軌跡を眠れるミューズから始まり、鳥、接吻、ここには紹介しませんでしたが珍しいフィルム作品まで観ることができました。
特に印象的だったのは、作品を360度ぐるりと回りながら見ることで生まれる変化です。視点の高さや距離によって、卵形の頭部が顔に見えたり、抽象的な形が動物に変わったり——そのたびに新しい発見がありました。彼の作品は見る者の想像力を掻き立て、静かに心を揺さぶります。現代アートに少しでも興味がある方、彫刻の美しさを感じたい方、ぜひブランクーシの世界に触れてみてください。
▼展覧会公式サイト
▼H'ART Museumのカフェは居心地がよくて好きです
▼アムステルダム中央駅のカフェもレトロで素敵
▼オランダと言えばゴッホ美術館ははずせません。この展覧会は素晴らしかった!
▼ゴッホ美術館のカフェで食べたひまわりケーキ




















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